いつも美味しいコーヒーをだしてくれました。
通いはじめたのはハタチ前後のころだったと思います。Bercutくんが「いいお店あるんだよ」といって紹介してくれました。
そこは駅前の建物の二階。表通りには面していましたが、外から階段をのぼっていかないとお店にはいれないこともあり、ひっそりとした、静かな喫茶店でした。
店内は薄暗く、けれども落ち着いた雰囲気で、表通りに面しているのにその喧騒を忘れさせてくれるようにゆっくりとした時間が流れます。
お店にはいると「いらっしゃいまーせ〜」と独特のイントネーションで(く…表現むずかしいな)メガネをかけたウェイトレスさんが迎えてくれます。
あー、誤解しないでね。ふつーのオバサンですよ、ええ。
そして奥には小柄で、しかしガッチリとしたヒゲのマスターがニラむようにこっちをみてきます。
パっとみ、コワイ感じですよ。
さしだされたメニューには、いろんな種類のコーヒー、紅茶、ココア、スィーツ、軽食がならんでいます。
その中でのオススメはなんといっても「水出しコーヒー」
お店の真ん中には、それを象徴するかのようにウォータードリッパーが置かれています。これで10数時間かけて水でコーヒーをいれるのです。
これが、ホンっとにウマイんですよ。夏場はもちろん、冬でもスッキリとした味わいでコーヒーが飲めます。
他のコーヒーも美味しかったですし、Waoはどちらかというと紅茶派なのでオレンジ・ペコやアールグレイを好んで飲んでましたが。
カウンターの奥には強面のマスターが似つかわない手つきでフライパンをふったりして料理をつくっています。これがウマイ!
カルボナーラをよく食べてたっけなぁ。
でもね、このマスター、携帯電話が大キライなのです。入口にも「当店で携帯電話の使用は禁止です」なんて張り紙もあったりします。
この禁を破ると、まずウェイトレスさんがやってきて「当店は携帯電話禁止で…」って警告がきます。
しかし、ここで警告を無視すると、
「携帯切れっ!!!」
というマスターの怒声が店に響き渡ります。みんなビビリまくりですよ。
でも、そのマスターはとてもいい人で、三月にはケーキに雛あられをちらしてみたり、季節を意識した料理やスィーツをだしてくれます。
「今日、ちがいますね」
って、Waoなんかがいうとニヤっと笑って
「ひな祭りっぽいでしょ」
とかってやさしくいってくれます。
そんなこんなで数年かよっているうちに仲間内にはMushaも増えて、集まっちゃウダウダしていたのが懐かしいです。
いろんなお話ししたり下ネタ話したりWaoたちはうるさかったでしょうに、マスターも文句もいわず閉店間際までやってくれてサービスしてくれたりしました。
きっと、お店を人が集まれて、くつろげる空間にしたかったんでしょうね。
Waoたちが働きはじめたころ、みんなお金が自由になってきたころもあり、だんだんとこのお店にいく回数が減り、夜にお酒を飲みにいくような生活になっていきました。以前は毎週のように通っていたのですが、月に1〜2回くらいになりましたかね。
そんなある日のことです。「ひさびさにいってみようぜ」なんていって入口への階段をあがっていくとそこには、いつもの「携帯禁止」の張り紙ではなく「当店は○月○日を持ちまして閉店することになりました…」という張り紙がはられていました。
一瞬頭が真っ白になりました。だって、このお店はずっとそこにある、Waoたちがくつろげる空間だと思っていましたから。
ちょうど周辺が再開発され、さわがしくなったからなんでしょうか。マスターもまだ若かったし、お店を閉めるような年齢ではないはずでしたが…
そんなわけでWaoたちはもう、そのお店にはいけませんし、誰かに紹介することもできません。閉めるなら閉めるで、最後にお世話になったマスターとウェイトレスさんにお礼をいいたかったのに…
マスター、お元気ですか?いまもどこかでお店をやってるんですか?ぼくらも全員携帯電話をもってしまいましたが、いまでもお店は携帯禁止ですか?また美味しいコーヒーや紅茶を飲ませてくださいよ。
いつかどこかで訊いてみたいです。
ふと、思い出した、そんなお店のお話しです。